偶然の産物で、面白いものが生み出されることがある。
今日は、そんなエピソードを紹介させていただきたい。
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それは、私が高校三年生だった頃の話である。
私の親友に、酒井亮という男がいた。
身長が184cmで体重が60kgないくらいの、
モデル体型の男であった。
すげーオサレな奴だった。
この酒井氏は、なかなかの男で、
卒業文集に寄稿するのがダルいという理由で(ちゃんと食えよ)、
「寺尾ー、俺の卒業文集の原稿、
代わりに適当に書いてくんない?
お前、そういうの得意だろ。
ポカリ1本おごるからさ」
こんなことを言いだしたのだ。
ポカリ1本でそれを引き受けた私は、
適当に書いた。
本当に、超、てっきとーに書いた。
だって何書いてもいいっていうから。
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その学年には、酒井氏の他に、坂井君と堺君がいたので、
文章のタイトルは『俺が本物のサカイだ。』とした。
内容も、そんな感じで書いた。
(坂井君の方はちょっと不良だったが、、まぁ人の卒業文集だし関係ないし)
書くのに要した時間は、5分とかその程度だっただろう。
別に、その原稿自体が面白かったわけでは、断じてない。
私がその原稿を酒井氏に渡し、
それにざっと目を通した酒井氏本人も、
「ふーん、ま、いいや」くらいで読み流し、
それを先生に提出したはずだ。
(適当な文章なので、他のサカイ2人を怒らせるようにも見えなかったのだろう。。)
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その原稿だけを、それ単体で読んだところで、
その後の事態など予測できなかっただろう。
なぜなら、その原稿は、それ単体で読まれるものではなく、
卒業文集として、冊子にまとめられて読まれるからだ。
そこに、落とし穴があった。
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あくまで文集なので、50音順で掲載される。
青木さんの卒業文、井上さんの卒業文、上野さんの…
というように。
ちなみに中高一貫校だったので、
『六年間を振り返って』
『最高の六年間』
こんな感じのタイトルが大半である。中には、
『これからのスタート』 『STAND BY ME』
なんて感じの未来志向なものもあったりしただろうか。
当然だが、みんな真剣に書く。
卒業文集だからだ。
感動的なことを書く人も、
反抗的なことを書く人も色々いたが、
やはり六年間の集大成である。
卒業文集、やはり想いが込もるというものだ。
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そんななか、急に、超適当な卒業文が出てくる。
タイトルは
『俺が本物のサカイだ。』
お前の六年間の集大成は、それなのかと。
では、それがウケ狙いで、わざと適当なことを
書いた文章かといえば、そうでもない。
なぜなら、ポカリ1本分の真剣さがあるからだ。
そして、真剣な流れの中で出てくるので、酒井亮は、
本気でそう言っているような感じになってしまった。
その卒業文集を読む限り、
どうやらこの酒井亮という男は
本気で六年間、
同じ学年の坂井君と堺君に対し
どっちが本物のサカイなのかの対抗意識を燃やし続け、
卒業文集にまで書いてしまった、、
そんな感じになってしまっていた。。
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真剣そのものの中に
急に適当なものがポツンと出てくると、
こんなに面白いものなのかという程、面白い…。
これは、ある種の発見だったといえよう。
その文集は、卒業前に配られた。1月とかそのくらいに。。
そして、それを読んだ誰もが、
酒井の奴、なんで急に卒業文集のタイトルで
我を張っているんだ?
酒井って、そんなキャラだっけ・・・?
喧嘩とかするようなタイプだっけ??
(実際は人に卒業文を書かせるような、超やる気のない男である)
こんな疑問を持った人々が、酒井氏のところへ集まり、聞いた。
「卒業文集に、そんなことを書いた真意は何か」と。
人だかりができる事態となっていた。
その人だかりの中には、坂井君と堺君の姿もあったのを、
私は鮮明に記憶している。。(クッソワロタ)
本人が何を弁解しても
「卒業文を、他人に書かせるわけないだろ」
「もっとましな嘘をつけ」
で、信じてもらえなかったようである。。
ひきつった表情をしたヒロキ(坂井君)を見た俺は、
大爆笑した。
(流石に喧嘩になったら止めようかとは思ったけど、多分)
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ちなみに、酒井氏の卒業文の内容は
・俺が本物のサカイである。
・以前に、偽物のサカイ扱いをされて飯が喉を通らなくなり、
痩せた。
・ガリガリになってしまい、健康を害するレベルだ。
・医大に行く人いたら、僕を助けて下さい。
こんな内容となっている。
これに対し、他の人の卒業文の締めくくりは
だいたい以下のパターンだ。
・最高の仲間達と過ごした、かけがいのない日々だった。
・先生方には感謝してます。
・この学園で過ごした日々を誇りに思う。
なぜか、学年で1人だけ、酒井氏だけがSOSを発信してしまっている。
ちゃんと卒業文として書いた原稿を載せないと、こうなるのだ。
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ゴーストライターに文章を書かせるのは、よくない。
これは、その良い例ではないだろうか。
Peace